バイオグラフィー - biografi

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Masaki Kashiwara. Photo: Peter Badge - Typos1/TheAbelPrize
Masaki Kashiwara. Peter Badge - Typos1/The Abel Prize

バイオグラフィー - biografi

柏原正樹のバイオグラフィー

柏原正樹は1947年1月30日、東京近郊の茨城県結城市に生まれた。父の柏原正治は農林省に勤務していたため、正樹が幼少の頃は、妻の和子と家族とともに転居を繰り返す生活を送っていた。

代数学が好きになったきっかけは、学生時代に鶴亀算という、頭の数の合計と足の数の合計から鶴と亀の数をそれぞれ計算する問題からだった。柏原は、どんな問題も解決する方法を一般化できることに、楽しみを覚えるようになった。

東京大学では、4年次のゼミで恩師となる佐藤幹夫(1928~2023)と出会う。佐藤は、関数の特性、特に線形偏微分方程式(LPDE)の理解に代数学のツールを応用した代数解析学という新しいアプローチを生み出した。

1970年の修士論文では、佐藤の指導の下、柏原はこの研究を基礎として、代数解析学によってLPDE系を研究するための新しい基礎である解析的D加群理論の基礎を確立した。この論文は、その後25年間、日本語版しかなかったにもかかわらず、世界的な影響を与えた。

1971年、柏原は京都大学数理解析研究所に移り、佐藤と代数解析学の研究を続けた。この年、柏原は、日本の堅田で開催された谷口シンポジウムに招待されたフランスの数学者ピエール・シャピラ(1943年生)と出会った。この共同研究はフランスで継続されることとなった。ピエール・シャピラの師であるアンドレ・マルティノー(1930~1972)は、佐藤、河合隆裕(1945年生)、柏原の3人を、1972~73年度の旧ニース大学(2019年よりコート・ダジュール大学)に招待した。残念ながら、マルティノーは到着直前に癌で亡くなった。その喪失感にもかかわらず、佐藤、河合、柏原はニース大学に向かった。この学術的な滞在は、数学者たちの間に活気のある仲間意識を育んだ。何年も経ってから、このことがシャピラと柏原による多様体上の層に関する共同研究の傑作を生み出すこととなった。

1973年に佐藤、河合、柏原は革新的な研究論文を出版した。それは後にSKK論文と呼ばれる有名な論文で、代数解析学における2つの重要な結果を証明した。1974年に京都大学で博士号を取得した後、柏原は名古屋大学の助教授となった。

1977年にマサチューセッツ工科大学(MIT)に研究者として出張したが、1978年に日本に戻ってからは、ずっと京都大学数理解析研究所(RIMS)に所属し、2002~2003年そして2007~2009年の2度、RIMS所長を努めた。

柏原は、2010年の定年退職の後、名誉教授となり、RIMS特任教授として研究を続けた。2018年に柏原がチャーン賞を受賞した時、賞金の一部の受取先として、 RIMSを指定した。また、世界最先端の研究拠点として特別に設立された京都大学高等研究院(KUIAS)の特定教授も2019年より務めている。

1980年、柏原はD加群理論を用いて、微分方程式の挙動に関する予想で何十年もの間数学者を悩ませていたリーマン・ヒルベルト予想を証明した。1981年には、40歳未満の数学者で優れた数学的成果を収めた者に贈られる日本数学会の彌永賞を受賞した。

リーマン・ヒルベルトの結果をさらに発展させ、柏原はジャン=リュック・ブリリンスキー(1951年生)とのカジュダン・リュスティッヒ予想に関する研究、そして後に谷崎俊之(1955年生)との研究により、代数学、解析学、幾何学を融合させ、表現論を大きく変えた。

1970年代からピエール・シャピラと共同研究を行ってきた柏原は、幾何学、トポロジー、結び目理論への応用を持つ表現論への大きな貢献である「超局所的層理論」を開発した。2018年、柏原は著書『Sheaves on Manifolds』(1990年、シュプリンガー出版社)を自身の最も重要な業績の一つであると述べた。

表現論へのもう一つの大きな貢献は、1990年に柏原が量子群の結晶基底理論を発展させたことである。量子群は、統計力学における格子モデルに起源を持つ代数的な対象である。柏原は、量子群を結晶基底を用いて有向グラフとして表現し、表現論における多くの問題の解決を可能にする組合せ論的手法を創出した。

多作な共同研究者である柏原は、代数解析学と表現論の分野で70人以上の数学者と研究を行ってきた。多数の論文を発表しているだけでなく、未発表のアイデアを他者に提供し、発展させることも行っている。例えば、超関数、ベクトル場、解析的波面を統合する「柏原スイカ切断定理」などである。

1981年の彌永賞以来、柏原は数々の賞を受賞している。1988年には河合隆裕氏とともに朝日賞(理学部門)を受賞した。1988年には代数解析学の研究により日本学士院賞を受賞し、2007年には日本学士院会員に選ばれた。2008年には「日本の科学技術の発展に大きく貢献した科学者」として藤原賞を受賞した。

2018年の国際数学者会議において、柏原は数学分野における優れた功績に対して国際数学連合のチャーン賞を授与された。また同年、「現代数学の広範な領域への顕著な貢献 」に対して稲盛財団の京都賞を受賞した。

彼は国際基礎科学会議のフロンティア・オブ・サイエンス賞[yi1] を韓国の3人の共同研究者である、Myungho Kim氏(1957年生まれ)、Se-Jin Oh氏、Euiyong Park氏とともに2023年に、また、イタリアのAndrea D’Agnolo氏とともに2024年に受賞した。

2020年には瑞宝重光章 、2024年には京都府文化賞特別功労賞を受賞した。

柏原正樹は柏原紘子と1981年10月6日に結婚している。余暇には卓球を楽しんでいる。

柏原が受賞した賞
2025: ノルウェー科学文学アカデミー アーベル賞
2024: 国際基礎科学会議 フロンティア・オブ・サイエンス賞(アンドレア・ダニョー氏と共同受賞)

2024: 京都府文化賞特別功労賞
2023: 国際基礎科学会議フロンティア・オブ・サイエンス賞(Myungho Kim氏、Se-Jin Oh氏、Euiyong Park氏と共同受賞)
2020: 瑞宝重光章
2018: 稲盛財団京都賞
2018: 国際数学連合チャーン賞
2008: 藤原賞
1988: 日本学士院賞(柏原は2007年に日本学士院会員となった)
1981: 日本数学会・彌永賞
1988年:朝日賞(河合隆弘氏と共同受賞)

画期的なSKK論文(1973)の文献
佐藤幹夫、河合隆裕、柏原正樹 (1973). 「Microfunctions and pseudo-differential equations」『Hyperfunctions and pseudo-differential equations』 (Proc. Conf., Katata, 1971; アンドレ・マルティヌーの思い出に捧ぐ). 第287巻。数学レクチャーノート. シュプリンガー、ベルリン、265-529頁。MR: 0420735 (p.98に引用)

鶴亀算(つるかめざん)の解説
算数を言葉で表す場合がある。
鶴亀算は、鶴(つる)と亀(かめ)、さん(算数)の方程式である。構成は、「鶴」+「亀」+「算数」である。
「さん」は連濁により、「ざん」の読み方に変化する。
これは日本でよく使われる数学の「なぞなぞ」である。「ツルとカメの頭数がX、足の数はYである。ツルとカメはそれぞれ何匹いるか?」


 [yi1]プレスリリースとあわせた表記とさせていただきました。